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福岡高等裁判所 昭和48年(ラ)131号 決定

抗告人

金原泰烈

右代理人

東敏雄

主文

一、本件抗告を棄却する。

二、抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

(本件抗告の趣旨及び理由)

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(一)〈省略〉記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

一本件競売期日の公告が不適法である旨の抗告理由について

一件記録によると、本件競売に付された不動産は、別紙(二)〈省略〉記載の土地及び家屋であつて、株式会社タツキ倉庫が右不動産を競落した本件競売期日の公告に際しては、賃貸借関係事項として、別紙(三)記載のとおりの公告がなされていることが明らかであるところ、抗告人が本件競落許可決定を不服とするゆえんは、要するに、右のごとき賃貸借関係不明なる公告は不適法であるというに帰する。

しかしながら、元来、不動産競売期日の公告に賃貸借関係事項を掲記すべきものとされているのは、競買希望者をして競買申出価格を判定させ、あるいは競落後引受けるべき賃貸借の存在を予知せしめて、不測の損害を蒙らせないようにするための資料を提供することにあり、それらの点についての関係者の調査の労を一切省略させることをもつて目的とするものではないから、競売裁判所は、競売申立人が賃貸借関係の証明ができないため執行官に取調べをなさしめた場合において、その執行官の取調べが不能に終わり、あるいは賃貸借の有無が不明であるときには、その旨を掲記し、また、競売不動産の所有者と占有者の間で申述が食い違うなどして、そのいずれも判断しがたいときには、その申述するところをそのまま掲記すれば足るものと解するのが相当である。けだし、もしそうでないとするならば、迅速処理の要請される競売手続において難きを強いることになるばかりでなく、かような賃貸借関係不明等の公告は、帰するところ、競買希望者に対してみずから取調べるなど慎重な配慮の必要を示唆することにもなるのであるから、賃貸借関係を公告事項とした法の趣旨に背くものともいえないからである。尤も、この場合、執行官のなした賃貸借の取調べに遺漏があつたとでもいうのであれば格別であるが、一件記録を精査しても、本件においては、執行官の取調べに手落ちのあつたことを窺わしめる資料は存しないから、右取調べは誠実になされたものと推認するのが相当であり、結局、本件の場合にあつては、しかるべき調査をつくしたうえで、別紙(三)記載のごとき賃貸借関係不明の趣旨の公告がなされるに至つたものと認めるほかはない(抗告人主張のごとく、本件競売不動産の所有者たる太陽興産株式会社について破産手続が進行中であるからといつて、直ちに、賃貸借関係の調査をつくさなかつたものと即断することはできない。)。また本件において、最低競売価額の評価、決定にあたつて特に違法、不当と目すべき廉があつたとも認められない。

従つて抗告人のこの点に関する主張は、採用することができない。

二本件競売における競買の申出が不適法である旨の抗告理由について

しかしながら、本件競売において競買の申出をした鳥井敬が、同競買申出の当時競落人たる株式会社タツキ倉庫の代表取締役であつて、同会社の代表権限を有していたことは、一件記録(ことに、同会社の昭和四四年八月六日付及び同年一一月六日付各商業登記簿謄本並びに同年一月一三日付及び同年五月一五日付各商業登記簿抄本)に徴して明らかであるから、この点に関する抗告人の主張も、採用できない。

三結論

その他、一件記録を仔細に検討しても、原決定には、これを取消すべき何らのかしも認め得ない。

よつて、本件抗告はその理由がないから、これを棄却すべく、抗告費用は抗告人に負担させることにして、主文のとおり決定する。

(佐藤秀 麻上正信 篠原曜彦)

(別紙(三)) 不動産の賃貸借等

(イ) 前記物件②の建物につき、昭和四五年九月より賃料月三万円(期限、敷金など不明)にて賃貸借契約あり。

但し、所有者太陽興産株式会社の破産管財人は賃貸借契約は解除した旨主張。

(ロ) 前記物件①の宅地上には②の建物の外に

一、工場 鉄骨造スレート葺平家建

床面積 約一、一二〇m2乃至一、二〇〇m2

が建築されているが、その敷地部分の使用権原賃貸借など不明である。

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